埼玉の巨樹と古木紹介
文化財的価値をもつ樹木は、長い年月を経て巨樹・古木となったものが多く、その樹木が本来持つ特徴ある姿を我々に示してくれます。一方で、それらの樹木は、長い年月を経る間に樹勢が衰退したり幹の腐朽が顕著になったりして、文化財的価値を損ねかねない支障を生じることが多くあります。支障が生じた場合、その保護・保全を図るために樹木医が治療を施すことがあるわけですが、治療の如何を問わず、その他多くの教材を提供してくれる存在もあります。支部では、県内にあるそうした文化財的価値のある巨樹・古木を対象とした研修を、定期的に行っていますが、主な対象となるのは以下にあげるような巨樹や古木です。
※尚、以下に示す樹木の形状は、埼玉県教育委員会 平成23年3月「平成22年度 国・県指定天然記念物(植物) 緊急現状調査報告書」に基づく。
埼玉県巨樹と古木マップ
※地図上の名称をクリックすると説明に移動します。
埼玉県巨樹と古木リスト
牛島のフジ
国指定特別天然記念物
昭和3(1928)年 1月18日天然記念物指定
昭和30(1955)年 8月22日天然記念物指定
所在 | 春日部市牛島786 |
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樹種 | ノダフジ |
樹高(棚高) | 2.1m |
根元周 | 総周囲9.0m、主幹の根回り1.45m |
棚面積 | 約600㎡(東西34m 南北17m) |
推定樹齢 | 1200年 |
園芸品種では群を抜いて日本一大きなフジと言われている。そばに樹齢600年の子株があり、これもあわせて指定されている。
根元から10本に分岐した幹が複雑に絡み合っているほか、4月下旬から5月上旬に鮮やかな藤紫色の花を着け、2m近い花房が棚からすだれのように垂れ下がる。明治のころは3mにも及ぶ花房をつけ、「九尺藤」とよばれていたらしい。
2013年現在、日本国の天然記念物に指定されたつる性植物は8件、そのうちフジ属は7件であるが、フジ属の特別天然記念物は牛島のフジのみである。
(出典:藤花園ウェブサイト)
与野の大カヤ
国指定天然記念物
昭和7(1932) 年7月25日天然記念物指定
所在 | さいたま市中央区鈴谷1083-1(妙行寺金毘羅堂境内) |
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樹種 | カヤ |
樹高 | 21.7m |
幹周り | 7.66 m (根元周り13.5m) |
推定樹齢 | 1000年 |
隣接する妙行寺の縁起では、平安時代中期の長元年間(1028年から1037年)に植えたものと伝えられ、室町時代の応永年間(1394年から1427年)には、既に関東随一の巨木として知られていて、旅人のよき道標であったと伝えられている。また、鎌倉時代にはこの木を神木として金毘羅天が祀られ、以来、榧木金毘羅として広く信仰の対象にもなっている。
(出典:さいたま市ウェブサイト)
石戸蒲ザクラ
国指定天然記念物
大正11(1922)年 10月12日天然記念物指定
所在 | 北本市石戸宿3丁目119番地(東光寺境内 ) |
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樹種 | エドヒガン×ヤマザクラ |
樹高 | 14.7m |
幹周り | 3.3m (根元周り7.41m) |
推定樹齢 | 800年 |
石戸蒲ザクラは日本五大桜のひとつに数えられており、国の天然記念物の指定を受けた大正11年当時には、幹が4本に分かれ根回り11mにもおよぶ巨桜だった。戦後はしだいに衰えを見せ、現在では4本あったうちの1本の幹と、孫生えが残る姿となったものの、毎年4月10日前後には花弁の白い可憐な花を枝いっぱいに咲かせる。
樹種は和名「カバザクラ」という世界でただ1本の品種で、最近の研究では、ヤマザクラとエドヒガンの自然雑種であることがわかっている。
石戸蒲ザクラには鎌倉幕府を開いた源頼朝の異母兄弟である蒲冠者源範頼の伝説がいくつも残されていて、桜の名前は範頼に由来している。
巨大な蒲ザクラの様子は江戸時代後期の読本作家、滝沢馬琴によって書かれた「玄同放言」のなかでとりあげられ、渡辺崋山が挿絵を描いている。
(出典:北本市ウェブサイト)
上谷の大クス
県指定天然記念物
大正11(1922) 年3月29日天然記念物指定
所在 | 越生町大字上谷634 |
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樹種 | クスノキ |
樹高 | 27.5m |
幹周り | 9.6m |
推定樹齢 | 1000年 |
環境省が平成元年に実施した「緑の国勢調査」で、全国巨木ランキング第19位、埼玉県内第1位に認定された。埼玉はもちろん、関東でも最大の巨樹で、平成11年に樹勢回復治療を施しており、樹脂が充填されている所も見られるが、樹勢は旺盛である。
暖かい西日本地方に多く見られるクスノキが、関東の山間部でこのような大木に成長するのは、きわめて珍しい例。
周囲には根を傷めないよう木道が整備され、山間部のロケーションとあいまってまるで屋久島の縄文スギのような雰囲気となっている。
(出典:越生町ウェブサイト/高橋 弘 著 東京地図出版「神様の木に会いに行く」他)
タラヨウジユ(慈光寺)
県指定天然記念物
大正14(1925)年 3月31日天然記念物指定
所在 | ときがわ町大字西平386 |
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樹種 | タラヨウ |
樹高 | 11.5m |
幹周り | 3.4m |
推定樹齢 | 1100年 |
慈覚大師円仁(794~864)が天長年間(824~834)に植えたと伝えられる。
昭和63年4月7日の降雪によって枝が折れたことから、主幹の内部が腐朽し空洞化していることが分かった。枯れ枝を取り除いて整枝・剪定を行った。その際、ウロのなかに発生した不定根の養生を行った経緯があり、平成26年3月にも整枝・剪定を行っている。
(出典:ときがわ町ウェブサイト 他)
西平のカヤ
県指定天然記念物
大正14(1925)年 3月31日天然記念物指定
所在 | ときがわ町大字西平地内 |
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樹種 | カヤ |
樹高 | 17.5m |
幹周り | 6.8m |
推定樹齢 | 1000年 |
「都幾川慈光寺実録」には、慈光七木として「立ち返り柳」「椎樫」「五葉の松」「大栢」「八重の桜」「一本樅」「天狗杉」の名称が記されている。これらのうちの「大栢」は、萩日吉神社の南東にあるこのカヤであると推定されている。しかしその他の七木の所在と由来は、残念ながら分かっていない。
町によるこれまでの診断調査によると、非常に多くの枯れ枝が発生しており、太枝の付け根が腐朽したり幹に複数の開口空洞があったりと、多くの支障が発生している。残念ながら、樹勢が衰退しつつある。
(出典:慈光寺ウェブサイト 他)
勘兵衛マツ
県指定天然記念物
大正15(1926)年2月19日
所在 | 羽生市大字上新郷6500 |
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樹種 | クロマツ |
樹高 | 11.7m |
幹周り | 2.3m |
推定樹齢 | 380年 |
上新郷の宿通りから利根川畔別所地区に通ずる県道の西側に、松並木がある。この松並木は、寛永5年(1628)徳川家光が日光社参のおり、忍城主がその家臣勘兵衛に命じて植えさせたものといわれている。
上新郷の新井家に残る文書には、明治8年に69本を数えたとあるが、現在は1本を残すだけとなっている。
(出典:羽生市ウエブサイト 他)
子の権現の二本スギ
県指定天然記念物
昭和13(1938)年3月31日天然記念物指定
所在 | 飯能市吾野南461 |
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樹種 | スギ |
樹高 | 25.2m |
幹周り | 7.9m(5.44m) |
推定樹齢 | 800年 |
子の権現・天龍寺の参道脇に生える樹齢800 年といわれる南北に並んだ2 本のスギの老木である。北側の1本は、平成14 年の台風によりわずか1 本残っていた大枝が折損し、枯死に至っている。現在は高さ5mほどの切断された幹が残されているのみである。現在は南側の1本のみが生存しているが、樹高は指定時の36m よりかなり低くなっており、主幹の上部が折損するなどして樹形は乱れている。樹勢は、老木の割にはそれほど悪くない。トタンで塞がれてはいるが、根元付近には人が入れるぐらいの大きな開口空洞がある。この開口部のほか、幹には高さ10m程度まで樹皮欠損がみられ、ここには人工樹脂が塗布されている。
(出典:埼玉県教育委員会「平成22年度 国・県指定天然記念物(植物) 緊急現状調査報告書」)
高山不動の大イチョウ
県指定天然記念物
昭和22(1947)年3月25日天然記念物指定
所在 | 飯能市高山347-2 (常楽院境内) |
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樹種 | イチョウ |
樹高 | 34.5m |
幹周り | 10.13m |
推定樹齢 | 800年 |
不動尊本堂の階段下の平坦部と急峻な斜面との境に生育する樹齢800 年といわれる巨木である。根元近くで3 本の幹に別れ、北側の幹は先端部近くで切断されている。南側の幹から横に出た枝には気根が良く出ており、これを乳に見立てて「子育てイチョウ」とも呼ばれている。根元から幹にかけて樹皮欠損もしくは開口空洞がみられるが、人工樹脂が塗布され修復してある。幹にみられる比較的小さな樹皮欠損部もしくは開口部にも人工樹脂が塗布されている。全体としては、樹勢は比較的良い。
(出典:埼玉県教育委員会「平成22年度 国・県指定天然記念物(植物) 緊急現状調査報告書」)
萩日吉神社の社叢
社叢林(県指定天然記念物)
県指定天然記念物
平成4(1992)年3月11日天然記念物指定
児持杉(町指定天然記念物)
町指定天然記念物
所在 | ときがわ町大字西平1198 |
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樹種 | スギ、アカガシ、モミ他 |
樹高 | 30m以上 |
幹周り | 1.0m以上 |
社叢は主にスギで構成されており、胸高直径1m 以上、樹高が30m 以上のものが多く見られる。参道脇には、町指定天然記念物の児持杉(こもちすぎ)があり、株立ちで、同程度の形状を有している。また、社殿裏にはアカガシがあり、胸高直径1m 以上の老齢木で、幹にはサルノコシカケなどが発生しおり、大きな開口空洞がある。この開口空洞に対しては、樹木医によるの処置が施されているものの、樹勢の衰退が窺える。その他、樹高30m以上のモミもあり、存在感を出している。
(出典:埼玉県教育委員会「平成22年度 国・県指定天然記念物(植物) 緊急現状調査報告書」)
大久保の大ケヤキ
県指定天然記念物
平成6(1994)年3月16日天然記念物指定
所在 | さいたま市桜区大字大久保領家 433-4(日枝社境内) |
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樹種 | ケヤキ |
樹高 | 25.1m |
幹周り | 9.76m |
住宅街にある日枝神社の参道の入り口、鳥居のすぐ脇に立つ老木である。樹幹の太さは県内最大とされる。主幹は高さ4mほどしかなく、中は空洞になっており、内部は一部が炭化している。落雷などの影響が原因するものとされている。残った幹からは7 本の大枝が放射状に伸びていて、それらには樹皮欠損が認められるほか、分岐部に腐朽が認められるものもある。ただし、これらは大きな障害とはなっていない。
(出典:埼玉県教育委員会「平成22年度 国・県指定天然記念物(植物) 緊急現状調査報告書」)
蓮花院のムク(れんげいんのむく)
県指定天然記念物
昭和19(1944)年 3月31日天然記念物指定
所在 | 春日部市大衾53 |
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樹種 | ムクノキ |
樹高 | 20.0m |
幹周り | 7.06m |
推定樹齢 | 約400年 |
蓮花院の本堂前に生育している「椋の木」は樹齢約400年と推定され、樹勢はきわめて良く茂り枝ぶりもよく、指定当時、既に地上1.6mのところで樹のまわりが6.6mもあって、樹全体の姿が優美であり県内に現存する樹としてはめずらしく大木であった。
平成23年7月の大枝の折損・落下により現在の樹高は、20.0m、幹周り(地上高1.2m)7.06m、枝張りは南北23.3m、東西25.0mとほぼ半球形に近い状態で枝が伸長している。
地上高10m付近から5本の大枝に分かれていたが、前述の折損・落下により幹分岐部の内部が腐朽していることが分かった。このことから、大枝の軽減剪定と枯枝の切除が行われ、上部の大枝4本を束ねるようにワイヤーで補強がなされるとともに、土壌改良による樹勢回復を試みている。
(出典:埼玉県教育委員会・春日部市教育委員会 解説板、弥勒山 蓮花院ウエブサイト 他)
並木の大クス(なみきのおおくす)
県指定天然記念物
昭和9(1934)年3月31日天然記念物指定
所在 | 川越市並木277 |
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樹種 | クスノキ |
樹高 | 31.0m |
幹周り | 4.2m |
推定樹齢 | 約100~199年(環境庁「日本の巨樹・巨木林 関東版(II)(1991)」による)
詳しくは不明 |
並木の大クスは、住宅街の中で並木のシンボルとして生育するクスノキである。指定当時は農家の屋敷前に植えられたもので、現在はこの木を中心に「並木の大クス公園」として整備され保護されている。生育可能域の北限に近いにもかかわらず、樹高は29.5m、幹周り6.33m、枝張りは南北に23.9m、東西に14.5mに成長した珍しい例である。現在は独立樹として雄大な樹姿をしており、樹勢は枯れ枝などもほとんどなく良好である(平成22年時点)。
樹幹は大きく安定しているがやや南側に傾きがみられ、ワイヤー支柱による養生と幹上部における大枝の脆弱部分の対策としてロープによるサポートがなされている。また、センサーを用いて土壌の状態をモニタリングすることで、きめ細かい維持管理による樹勢回復を試みている。
(出典:出典:埼玉県教育委員会 報告書・川越市教育委員会 解説板)